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カーリルによる「COVID-19 : 学校図書館支援プログラム」の展開

2020年9月1日 · 約5分・図書館雑誌 2020年9月号 掲載記事

Ryuuji Yoshimoto
この記事について

このページは、2020年9月号の「図書館雑誌」に投稿した記事の最終校正前の原稿をそのまま掲載しています。この記事はCC BY 4.0(クリエイティブコモンズ・ライセンス)を適用しています。

  • 国立国会図書館書誌ID 030632333
  • CRID 1522262180920858368
  • 図書館雑誌 = The Library journal / 日本図書館協会図書館雑誌編集委員会 編 114(9)=1162:2020.9 p.504-506

プログラムの概要

カーリルが2020年4月23日に発表した「COVID-19:学校図書館支援プログラム」は、インターネットからアクセスできる簡易的な蔵書検索サービス(Web-OPAC)を無償提供することで、図書館の柔軟なサービス展開を支援するものである。このプログラムは、5月初旬から提供を開始したが、運用開始から3か月間で約220館の図書館に導入されている。

2020年4月22日に文部科学省が発表した事務連絡において、休館した学校図書館の取り組みとして、郵送での貸し出しなどが例示された。しかし学校図書館においては、インターネットでの蔵書検索サービスの公開が進んでおらず、長期休校時の郵送貸出サービスなどの実施において課題があると考えた。このため、カーリルでは、これまでに開発してきた検索技術を学校図書館向けに提供することを決め、文部科学省の発表の翌日にサービスの概要を発表した(図1)。この時点ではシステムの開発や設計はこれからという状況であったが、2019年に埼玉県高等学校図書館研究会と総合目録に関しての実証実験を実施するなど、タイミングよく学校図書館と連携した技術開発を進めていた経緯があり、この成果を活用することで迅速に開発を進めることができた。ファーストユーザーの三重県立津高校では5月7日にサービスの開始を発表している1

このプログラムでは、蔵書データをカーリルに送ると、蔵書検索サービスにつながるURLを発行する。多くの図書館は、生徒や先生にこのURLを通知することで利用者を限定してサービスを運用しているが、学校のウェブサイト上で広く公開している図書館もある。データ更新にも対応できるため、多くの図書館では定期的にデータを更新している。

図1.サービスのイメージ 図1.サービスのイメージ

自由なデータ形式による効率化

蔵書情報のデータ形式は限定せず、自由なデータ形式で受け付けた。導入のハードルを低くするためだったが、運用を始めてみると、効率化の観点でも自由なデータ形式が最適であることがすぐにわかった。図書館システムからそれぞれのデータ形式で蔵書目録をエクセルやテキストデータとして抽出し、このデータをそのままメール送信するだけで検索サービスを立ち上げることができる。カーリルではあらゆるデータ形式に対応できるよう、随時プログラムを開発したが、データに関して仕様を説明したり、調整したりする場合と比較すれば、コミュニケーションにかかるコストが大幅に削減され、サービス導入までの時間も大幅に短縮された。

学校内での決裁など合意形成に苦労する図書館については、デモデータ(という実データ)で動くものを見てから検討するよう勧めた。このような対応をした図書館からは、「上司に実際の検索サービスを使ってみてもらったところ、すぐに決裁がおりました」などのフィードバックがあった。

オープンな書誌情報による自動補完

 提供されるデータはISBNのみのケースもあれば、詳細な書誌情報を含むケースまで多様である。提供されるデータに加え、ISBNがある場合については、国立国会図書館やCiNii Booksの書誌情報、カーリルと版元ドットコムが共同運用しているopenBD2などのオープンな書誌情報が自動的に補完される仕組みを導入した。これにより、たとえば提供されたデータによみ仮名が含まれない場合であっても、よみ仮名で検索できるようになった。もちろん、ISBNさえあれば書影や目次も表示される(図2)。

電子化された目録データが無い図書館でも導入された事例があった。このようなケースでは、バーコードリーダーを用いてISBNバーコードを読み込んだり、バーコードの無い本については手入力したりして、ISBNのある資料を優先してデータ化した。ISBNリストをそのまま今回のシステムに登録することで書名などが自動補完されるため、最小限の労力で迅速に蔵書検索サービスを構築することができた。

図2.検索サービスの例(三重県立津高校) 図2.検索サービスの例(三重県立津高校)

Googleフォームを活用した予約受付

 希望のあった図書館には予約連携機能を提供した。予約の受付は、独自システムを構築せず、無料で使えるアンケートシステムである「Google フォーム」と連携することで迅速にサービスを立ち上げた。緊急事態宣言下での郵送貸出では、複数冊をまとめて申し込む「カート方式」の予約機能が多く利用された一方で、6月以降は、「1冊単位」での予約機能が増える傾向にある。これは、検索サービスの利用ニーズが滞在時間の短縮に変化してきたためだろう。

Googleフォームを活用することで、入力項目なども図書館が随時調整できるようになり、状況の変化に合わせて柔軟な図書館サービスの展開が可能である。予約フォームで資料の予約と同時にレファレンスを受け付けている事例もある。

当初は、「検索ができるだけでも図書館のサービスを維持することができた」「郵送貸出に多くの生徒が申し込んでくれました」などの反響があった。最近では、「生徒が教室からスマートフォンで予約してくれるようになった」「これまであまりなじみのなかった先生が資料を使ってくれるようになった」というようなフィードバックも増えている。

統合的な検索サービス

 サービス提供にあたり「カーリル Unitrad API」という県立図書館などに提供する業務用APIサービスの技術基盤を活用した。これにより、導入館同士はもちろん、国内のほとんどの公共図書館、大学図書館などと横断検索するサービスを構築することができる。

この機能を活用することで、たとえば長野県高森町では、小学校2校、中学校1校、すでに蔵書検索サービスを公開している町立図書館と町が契約する電子書籍サービス(OverDrive)、無料でアクセスできる青空文庫を統合的に検索できるサービスを構築した。生徒が住んでいる近隣市町村の公共図書館をまとめて検索できるようにした高校の学校図書館もあった。

自館の蔵書にとらわれない柔軟な検索サービスの構築が可能となれば、生徒がアクセスしやすい範囲で検索対象を広げることで、新しい情報に出会う機会も増えるだろう。このような連携は、公共図書館の相互貸借のニーズによって発展してきたものであるが、学校図書館の蔵書データがインターネットと繋がることで、自治体や組織を超えた連携が可能となる。多くの学校図書館同士が情報共有できるようになれば、選書にも活用できるだろう。

学校図書館以外へのひろがり

このプログラムは、学校図書館をメインに想定しているものの、限定はしていない。小中高校や特別支援学校などはもちろん、大学、専門学校、男女共同参画センターなどの専門図書館、あるいはコミュニティースペースに設置されたいわゆるマイクロライブラリーでも導入された。カーリルでは、引き続きあらゆる図書館に対して無償でサービスを提供していく方針である。特に最近では公民館図書室などからの問い合わせも増えており、結果的にカーリルの網羅性の向上にもつながっている。今後は、各道府県立図書館が運用する総合目録や横断検索サービスの収録範囲拡大にも貢献できるだろう。まだ図書館システムの整備が完了していない図書館については、本格的な図書館システム導入のきっかけとなることに期待している。

さいごに

本稿を執筆する8月初旬においても、パンデミックは収束しておらず感染拡大は継続している。にもかかわらず公共図書館を中心に従来通りのサービスへの回帰と執着がみられることは残念である。税収が落ち込めば、それに応じて行政サービスも縮小される。このような状況下で図書館サービスを発展させるには、そのことを前提にした生産性の向上が不可欠だ。また、感染リスクを軽減しながら、図書館サービスを維持するためにも、図書館員だけでなく、利用者のICTスキル向上に取り組む必要がある。私たちが扱っているのは本質的に紙ではなく情報なのだ。制度の改正によって解決しなければならないこともあるが、工夫できることも多いのではないか。

蔵書検索のインターネット公開のみならず、オンラインミーティングの積極的な活用や、ウェブサービスを介したレファレンスなどの広がりをみると、この期間で学校図書館のICTスキルは飛躍的に向上しており、COVID-19下で始まった学校図書館の新しい取り組みは、国内の図書館をけん引していくだろう。

今回の取り組みは、学校図書館員からの要請に呼応する形で提供したものではあるが、今後はカーリルとしてもさらに主体的に取り組み、サービスを発展させていきたい。支援プログラムの受け付けは継続している。詳しくはカーリルのブログ記事3を参照してほしい。

※この記事はCC BY 4.0(クリエイティブコモンズ・ライセンス)を適用する。

参考文献

  • 1) 三重県立津高等学校図書館、株式会社カーリルの「COVID-19 学校図書館支援プログラム」を活用して同校生徒向けに資料の検索・予約サービスの提供を開始 https://current.ndl.go.jp/node/40930 (2020年8月1日アクセス)
  • 2) openBDプロジェクト https://openbd.jp/ (2020年8月1日アクセス)
  • 3) カーリルのブログ「COVID-19 : 学校向け蔵書検索サービスの無償提供について」 https://blog.calil.jp/2020/04/negima.html (2020年8月1日アクセス)